才能の宝庫ゆえのサバイバルの中
仙台カップ組から新ヒーロー誕生も!?
ネルソン時代の幕開け
2006年6月22日、日本全土がブラジルとのW杯初対決という歴史的瞬間に沸きかえっていたころ、サンパウロの片隅で同じカナリア色のユニホームを着た若者たちが、額に汗してトレーニングに励んでいた。彼らこそ来年(2007年)1月の南米選手権を目指す、新生U−20ブラジル代表である。チームを指揮するのはネルソン・ロドリゲス監督。昨年11月に突然辞任を表明したレネ・ウェーベル氏に代わって、この3月から新たなキャリアをスタートさせた。2003年(U-18)、2004年(U-17)と2度にわたり仙台カップに参加しているので、すでにお馴染みの名前だろう。また昨年はU-17を率いて南米選手権(ベネズエラ)のタイトルを奪取。9月の世界選手権(ペルー)ではメキシコに惜敗し準優勝に終わったが、ユース世代での指導力はすでに高く評価されている。
今回のキャンプの期間は6月26日から7月8日。世界の目がW杯に向けられている最中にあえて実施されたことに、ネルソンの意気込みが感じられるのだが、それは招集された精鋭たちの顔ぶれにもよく現れている。総勢23名の内訳は、1987年生まれが15名、仙台カップへの参加資格を持つ1988年生まれが8名となっている。さらに87年組はルーカス、ジ・パラナ、ルイゾン、ムリエル、エドゥアルドといった、過去に仙台のスタジアムを沸かせた選手たちが中心で、88年組はほぼ全員が昨年の南米選手権と世界選手権を経験している。
監督によれば、「今回はチーム事情に左右されることなく、メンバーを選ぶことができた。現時点ではこれがベストの布陣だ。ただ仙台カップにはまた違った選手を連れて行こうと思っている。」とのことで、U-19世代とU-18世代を早い段階から融合させることを、ひとつのプランとしており、仙台は南米選手権のメンバーの底上げを図る場になりそうだ。
先日、泣く子もだまる"鬼軍曹"ドゥンガの次期代表監督就任が発表されたが、ブラジルサッカー協会(CBF)の内部はかなり大規模な地殻変動を起こし始めているようだ。その動きの中でユース代表は間違いなく最良の選択をした。2003年から選手の育成に携わってきたネルソン監督にとっては、U-17、U-18…といったカテゴリー分けは無意味なものかもしれない。過去3年間にわたり温めてきた「金の卵」を孵化させて、世界に通用する立派なカナリアに育てあげればよいのだ。彼の戦術的センスは、数々のタイトル奪取で証明されており、あとは成長著しい選手たちがその能力を発揮できれば、結果は自ずとついてくるだろう。「オシム・マジック」ならぬ「ネルソン・マジック」が飛び出すか?今回の仙台カップは監督の采配にも注目してみよう。
サバイバルレースの勝者は誰?
「QUARTETO TRAGICO!!」(悲劇の四人組)。
W杯ドイツ大会準々決勝、アンリのゴールでフランスに完敗した翌日、「QUARTETO MAGICO」(魔法のカルテット)の体たらくぶりをブラジルの地元紙はこうしたタイトルで揶揄した。90年のイタリア大会後のように、どん底まで落ちた「サッカー王国」のプライドを回復させるのは容易なことではないが、国民の期待は若手へと移り、2010年南アフリカ大会のメンバ―予想がはやくも紙面を賑わせている。(以下、年令は2010年時点のもの)はたしてその顔ぶれは?
やはりロナウヂーニョ(30)、アドリアーノ(28)、カカー(28)、ロビーニョ(26)らが、4年後も主役であることに変わりはないが、さらに2005年のワールドユース組からは、ブラジル全国選手権のFW部門で1位に輝いたラファエル・ソービス(インテルナシオナル、25)や、ボランチ部門1位のアローカ(フルミネンセ、24)の抜擢が期待されている。彼らの名前に混じって、確実に知名度を上げているのが、所属チームで続々とレギュラーを獲得している昨年の仙台カップ組だ。
若手の有望株の先発出場が決して珍しくないブラジルサッカー界ではあるが、今年はその比率が異常なほど高いのだ。その理由はいろいろ考えられるが、ひとつにはクラブの財政事情の悪化。ビッグネームの獲得に奔走して破産寸前に追い込まれたチームが、高給取りを解雇してユースから選手を引き上げるケースが地方では特に多い。またオイルマネーに魅せられた主力選手が突然移籍することもこれまで多く見られた。それにつけ加えて、今年はW杯を見据えて欧州に活動拠点を移す者もいた。こうした結果、ポジションによっては有望な若手にもチャンスが巡ってくる率が高くなったのだ。ちなみに昨年の仙台カップのメンバーで、大会以後1軍での先発経験があるのは、18名中14名にも上る。参考までに、2003年の来日メンバーで、すでに当時の所属チームを離れた者も同じく18名中14名で、ユース年代を生き抜く過酷さがこんなところにも表れている。
さて、2010年に最も近い仙台カップ組といえば、まずはルーカス(グレミオ・2004年・2005年大会参加)と見て間違いない。昨年のブラジル全国選手権2部で監督の絶大な信頼を勝ち取って以来、チームのアイドルに成長し、いまでは彼の不在が即チームの負けにつながるほど重要な存在となっている。4年後でもまだ23才。このまま順調に成長していけば、南アフリカ大会の目玉になるかもしれない。もちろん欧州のスカウト陣が放っておくわけがなく、年末以降のチェルシー移籍が噂されている。守備陣で一歩リードするのは、クルゼイロのルイゾン(2004・2005年大会参加)だ。強靭な肉体にはさらに磨きがかかり、シュートの能力も身につけて一時はチームの得点王にも名を連ねたほどだ。昨年はまだ幼ささえ見えたアマラウ(2005年大会参加)も、パルメイラスでは右サイドの重責を任されている。FWでは長髪をなびかせた姿が印象深いモレ―ノ(ヴィットーリア・2005年大会参加)が、チームの救世主として期待されている。
ブラジルサッカーの源泉は底が深い。2010年までわずか4年と焦るのか? まだ4年と余裕でかまえるのか? それがサバイバルレースの行方を決めるだろう。あるいはロビーニョのような天才が出現するかもしれない。彼はほとんどユース世代での代表経験がないが、こういうケースはまれで、スターたちも大抵はワールドユースというハードルを乗り越えている。ちなみに、ドイツ大会のメンバーでは、ヂダが93年オーストラリア大会、ロナウヂーニョとフアンが99年ナイジェリア大会、アドリア―ノとカカーが2001年アルゼンチン大会に出場を果たしている。今後来年のワールドユース(カナダ)、2年後の北京五輪と若者たちの挑戦は続くが、彼らの足元はいつも不安定だ。「けが=ポジションを失うこと」であり、チ―ム戦術の構想外になれば、監督のひと言で移籍が宣告される。グラウンド外の誘惑に目をつぶる勇気も必要だ。はたして2010年灼熱の大地に立っているのは一体誰なのか?選ばれし勇者に来仙したメンバーは何人いるだろう?23名のセレソンのほとんどに見覚えがあれば、世界が、いや仙台が探し当てたヒーロー誕生の瞬間に立ち会うことができるかもしれない。
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